「正社員になれたんだし、安心だね」
友達にそう言われて、私は曖昧に笑いました。
確かにそう。夢だったアパレル販売員として就職して、いまは契約じゃなくて正社員。
でも、内心はモヤモヤしていました。
安心って、何? 正社員って、こんなにも生活がギリギリなものなの?
この違和感は、毎月の給与明細を見るたびに大きくなっていったのです。
「自分の服を買うのが怖い」と思った瞬間
入社して3年。ショップスタッフとしての仕事にはやりがいもありました。
接客もコーディネート提案も好きだったし、「〇〇さんから買いたい」と言ってもらえたときの喜びは何ものにも代えがたい。
でも、ふと気づけば月末はいつも財布の中が空っぽで、貯金どころか家賃と食費と通勤費でギリギリ。
インセンティブも出るけど、数字の波が大きくて安定はしない。
「販売員なんだから、身だしなみもしっかりしないとね」と言われて買った新作ワンピースも、翌月のカード請求で後悔。
ある日、「これ可愛いな」と思った靴を前に、無意識に「今月は無理だな」とつぶやいた自分に、なんだかショックを受けたのを覚えています。
「自分の好きすら、楽しめなくなってる」
そのとき、胸の中に冷たいものが流れたような気がしました。
比較して見えた、現実の「差」
同期で別業界に就職した友人と久しぶりに会ったとき、年収の話になりました。
彼女は一般企業で営業をしていて、年収は私より100万円以上高かった。
「えっ、そんなにもらってるの?」と驚く私に、彼女は少し困ったように笑って言いました。
「でも、そのぶん毎日遅くてさ、残業ばっかりで疲れてるよ」
たしかに、仕事にはそれぞれの大変さがある。お金だけじゃない。
でも、私だって、土日も祝日も働いて、立ちっぱなしで、笑顔を絶やさずに接客してる。
「なのに、なんでこんなに違うんだろう?」
この疑問が、私の心にずっと引っかかって離れませんでした。
年収を調べて、転職サイトを見て、ようやくわかったこと
「アパレル 正社員 年収」で検索すると、たくさんの記事が出てきました。
300万円未満が多いこと、昇給がゆるやかなこと、本社職やVMD職でなければキャリアアップが難しいこと……。
「じゃあ、私の未来って、どうなるんだろう?」
はじめて真剣に、将来のことを考えた瞬間でした。
そこから、転職サイトで条件を検索したり、業界研究をしたりするようになりました。
「アパレル経験を活かして、未経験から事務へ」
「美容やライフスタイル系の企業で内勤職」
「接客経験が強みに」
そんな文言に、はじめはピンとこなかったけど、読み進めるうちに、「私にもできるかも」と少しずつ思えるようになっていきました。
転職先は、ライフスタイル系メーカーの広報アシスタント
応募してみたのは、オーガニックコスメを取り扱う会社の広報アシスタント職。
正直、未経験の領域でした。
でも、アパレルで培った「お客様目線」「ブランドの伝え方」は評価してもらえました。
「この商品はどんなシーンで使われるか、どんな人に響くか」——まさにそれが、私が現場でやってきたことだったからです。
入社後、先輩たちに支えられながらプレスリリースの作成やSNS運用を担当するように。
覚えることは多かったけれど、頭も体力も、以前よりずっと余裕がある。
そして、なにより嬉しかったのは——
「貯金が増えた」こと。
ほんの数万円だけど、毎月口座にお金が残るようになって、未来に安心感が生まれました。
「アパレルが好き」は、本当だった。でも、「暮らしを立て直したい」も本音だった
私は、アパレルの仕事が本当に好きでした。
でも、「好きなことを続けたいなら、ちゃんと自分の暮らしを守らなきゃいけない」と今では思います。
「好き」を続けるには、現実を見る勇気も必要。
それに気づけたのは、友人との何気ない会話や、自分の違和感に目をそらさなかったからです。
今の仕事も、もちろん簡単じゃない。
でも、「自分で選んだ」と思える日々は、気持ちを強くしてくれます。
今、もしアパレル業界で「このままでいいのかな」と迷っている人がいたら——
一度立ち止まって、自分の“好き”と“暮らし”を見つめ直してみてください。
そこから、きっと道は開けると思います。
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