ひたすらFigmaと向き合っていた。
Slackの通知、修正依頼、締め切り、朝から夜までパソコンの前。
Webデザイナーとして働き始めて3年目の私は、気づけば「何を作っているか」よりも、「いつまでに仕上げるか」ばかりを気にしていた。
「この仕事、好きだったはずなのに」
そんな気持ちが、心のどこかで燻っていた。
デザインが「作業」に変わっていく感覚
新卒で入った制作会社は、いわゆる受託案件が中心。
クライアントの要望をヒアリングし、構成を組み、ワイヤーを引いて、モックを作る。
納期は厳しく、修正は多く、誰もが常に何かに追われていた。
先輩たちのスピードについていくのがやっとで、「とにかく手を動かすしかない」と毎日自分に言い聞かせていた。
でも、ふと気づいたときには、どのサイトも「自分がデザインした」という実感がなかった。
トレンドのUI、クライアントの希望、仕様書通りの構成。
確かに悪くはない。でも、私の中の「表現したいもの」は、どこにいったんだろう?
背中を押してくれた、友人のひとこと
そんな日々の中、高校時代からの友人と久しぶりに会った。
彼女はグラフィックデザイナーとして雑誌やパッケージの仕事をしていて、どこかキラキラして見えた。
「最近、描いてる?」
何気ないその一言に、思わず固まった。
描いてない。ペンタブも、スケッチブックも、埃をかぶったまま。
「高校のとき、イラストで賞取ってたじゃん。あれ、ほんとに良かったよ」
懐かしい記憶が、胸の奥で静かに揺れた。
「また描きたいな」と思ったのは、それが久しぶりだったからかもしれない。
デジタルと手描きの間で、自分の居場所を探す
その日から、少しずつペンを握るようになった。
夜、寝る前にiPadで描いたイラストをSNSに上げたら、「かわいい」「雰囲気あるね」とコメントがついた。
それが、嬉しかった。
Webサイトの構成に縛られず、余白や文字配置に正解がなくて、自分の感覚で作っていい。
グラフィックの世界には、そんな自由さがあった。
「もしかして、こっちの道に行きたいのかも」
そんな気持ちが芽生え始めたころ、ある出版社がInstagram経由で連絡をくれた。
「装丁デザインに興味ありますか?」
もちろん、経験はゼロ。でも、「やってみたい」という気持ちだけで、作品をまとめたポートフォリオを送り返した。
数日後、「一度会いませんか?」という返事が届いた。
転職して初めて、「つくる喜び」を取り戻した
出版社の制作部門に転職して半年、今は紙媒体や広告物のビジュアルを中心にデザインをしている。
納期はある。でも、Webのような更新スピードはない。
じっくりラフを描き、編集者とやりとりしながら“表現”を考える。
手を動かす時間は減ったけれど、心が動く回数は増えた。
ときどき、「こんなテイストも試してみたいです」と自分から提案できるようにもなった。
「これ、あなたっぽいね」
その言葉が、いちばん嬉しい。
「Webデザイナーは続けなきゃいけない」なんて、誰が決めた?
今振り返ると、私は「やめたい」とは思っていなかった。
ただ、“やりたい”を見失っていただけだった。
Webデザインも、グラフィックも、それぞれに良さがある。
でも、もしあなたが「作っているのに、つまらない」と感じているなら、それはあなたの中にある“好き”が呼びかけている証拠かもしれません。
私は、Webデザイナーからグラフィックデザイナーに転職して、自分の色を取り戻しました。
大きなきっかけじゃなかった。ただ、小さな違和感に気づいて、それを無視しなかっただけです。
そして今、「つくること」がまた好きだと思えるようになりました。
それだけで、毎日が少しずつ変わっていきます。
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