その日は、特別何かがあったわけではありません。
夜勤明けでもなく、大きなトラブルがあったわけでもない。
でも、目が覚めて、カーテンの隙間から差し込む朝の光を見た瞬間、なぜか涙がこぼれそうになったんです。
「今日、また病院に行くのか」
そう思っただけで、呼吸が浅くなる自分に驚きました。
若い頃の私は、看護師という仕事が「誇り」だった
40代。ベテランと呼ばれるようになった今でも、看護師になった日を思い出すことがあります。
真っ白な制服に身を包み、患者さんに「ありがとう」と言われたあの日の感動。
誰かの命に関わる仕事。責任は重いけれど、それだけにやりがいがある。
そう信じて、ずっと走り続けてきました。
でも、いつからかその感覚は、少しずつすり減っていったように思います。
一つひとつの出来事が、小さな「違和感」になっていった
人手不足の慢性化。若手の定着率の低さ。指示通りに動かない患者さんにイライラする自分。
そして、記録・報告・管理……本来大切にしたい「ケア」に向き合う時間が、いつの間にか減っていました。
夜勤明けのまま委員会に出て、昼食も取れずに帰ることも日常茶飯事。
誰かが倒れないと、シフトが見直されない。
「それでも現場は回さなきゃ」と自分を納得させ続けた日々。
でも、本当はもう、心が限界に近づいていたのかもしれません。
「辞める」という選択肢が、頭をよぎった日
その朝、どうしても体が動かなかった私は、久しぶりに欠勤の連絡を入れました。
電話を切ったあと、ソファに崩れ落ちるように座り込んで、ぽつりとつぶやきました。
「辞めたいかもしれない」
自分の口から出たその言葉に、驚きと同時に安堵もありました。
ずっと、言ってはいけないと思っていた。
「私が辞めたら迷惑がかかる」「今さら他の仕事なんてない」
でも、それは全部“思い込み”だったのかもしれない。
40代でも、看護師を辞める人はいる。
別の場所で、違う形で、人の役に立っている人もいる。
そう思ったら、少しだけ気持ちが軽くなった気がしました。
はじめて「看護師以外の働き方」を調べた日
その日の午後、私はパソコンを開いて、「看護師 辞めたい 40代」と検索しました。
そこには、自分と同じように悩んでいた人たちの声がたくさんあって、読みながら何度も頷いてしまいました。
訪問看護に転職した人、医療事務にキャリアチェンジした人、まったく異業種に挑戦した人……。
「看護師じゃない自分なんて考えられなかった」
そんな言葉の数々に、共感し、勇気をもらいました。
私は、“辞めること”そのものよりも、“辞めたあとの未来”が見えないことが怖かったのだと思います。
でも、知らなかっただけで、選択肢はたくさんあるんだと気づけました。
退職後、訪問介護のサポートスタッフに
その後、私は半年かけて退職の準備をし、今は訪問介護事業所で事務兼サポートの仕事をしています。
医療処置はなくなったけれど、介護スタッフや利用者さんの話を聞いたり、訪問記録の整理をしたり、今の私にできる形で支えることができています。
勤務は日勤のみ。休日は固定で、何より「もう夜勤がない」ことが体にも心にも大きいです。
あのとき、「辞めたい」と思った自分を否定しなくてよかった。
今、毎朝の目覚めが静かに嬉しい
今でも看護師として働き続ける同僚を尊敬しています。
でも、私は「違う形で人と関わる道」を選んだことで、ようやく自分を取り戻すことができました。
もし、今の仕事に違和感を感じているなら、それはあなただけじゃありません。
40代だからこそ、気づける限界があります。
そして40代だからこそ、それを認める強さも持っているはずです。
辞めることは、逃げじゃない。
あなたが“ちゃんと生きていく”ための、大切な選択かもしれません。
目覚めたとき、少しでも「ほっとする朝」を取り戻せますように。
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